“動かす”から“巻き込む”へ──人が動きたくなる社内コミュニケーション設計
動いてくれない営業に効く、“自分ごと化の3ステップ”で変える社内PRの新常識。
最終更新日:2025年11月5日
「お願い」では人は動かない──“伝えるだけ”の限界
「頼んだのに動いてくれない」「伝えたのに伝わっていない」。
社内連携で、そんなもどかしさを感じたことはありませんか。
それは“伝え方”の問題ではなく、
相手が「自分ごと」として捉えられていないからかもしれません。
人は「それが自分にどう関係するのか」が見えないと、動けない生き物です。
営業の現場でも同じです。
マーケティング部から「このリードをフォローして」と依頼されたとしても、
背景や目的が共有されていなければ、“自分の成果にどうつながるのか”が分からず、
結果、「あとでやればいいか…」となってしまう。
これは、いわゆる「他人事化」の現象。
不確実な情報には本能的にブレーキをかけてしまうため、
“理解できないこと”は、どうしても後回しになるのです。
「他人事化」してしまう3つの要因
・自分に関係があると感じない
・成果とつながる実感がない
・目的よりも手段だけが伝わっている
つまり、人が動かないのは「理解不足」ではなく「関与不足」。
“伝える”よりも、“自分ごと化してもらう”。
その視点に立ったとき、次に必要なのが「見える化」です。
「見える化」で“他人事”を壊す
「どこまで理解してもらうか」より、
「どこまで見せるか」を設計するほうが、人は動きやすくなります。
成果だけでなく、そのプロセスを共有することで、
周囲の人は「自分も関われそう」と感じやすくなります。
これは心理学でいう「不確実性回避」の特性。
人は“分からないこと”を避け、逆に“見える範囲”には安心して関わろうとします。
この考え方は、オランダの社会心理学者 ヘールト・ホフステード博士 が提唱した
「文化的価値観の6次元モデル」の中でも示されています。
このモデルでは、国や組織ごとに
「予測できない状況をどの程度不安に感じるか」を数値化し、
人々の行動傾向を比較したものです。
日本社会においては特にこの“不確実性回避”のスコアが高く、
曖昧な状況や手探りの進行を嫌う傾向があるとされます。
だからこそ、社内での進行状況や目的、背景を“見せる”ことが、
安心感と行動を生む第一歩になるのです。
たとえば、Slackで進捗をこまめに共有したり、
週報に「課題」や「迷っていること」も正直に書く。
完璧な報告よりも、リアルな途中経過を見せた方が、
周囲からの共感と協力を呼びやすいのです。
見える化の3つのポイント
・成果より“プロセス”を共有する
・完璧さより“途中経過”を見せる
・困っていることもオープンにする
実践例:Slackでの見える化運用
・「#進捗共有」チャンネルをつくり、更新を簡易テンプレ化する
・進捗+気づき+次の一手、の3行だけで投稿する
・完成前でも「途中でも出す」文化を定着させる
“見える化”とは、報告ではなく「共通の景色をつくること」。
その景色が見えた瞬間、人は動きやすくなるのです。
「共感化」で“感情の橋”をかける
どんなに正論でも、人は「納得したから」では動きません。
“心が動いたから”こそ、行動が生まれます。
共感は、ロジックではなく信頼を生むプロセス。
「理解」から「共鳴」へ、感情の橋をかけることが大切です。
共感を生む3つの伝え方
目的:なにを実現したいのか
意図:なぜそれをやるのか
想い:どんな気持ちでやりたいのか
この順番で語ることで、受け手の中に
“あっ、自分もやってみたい”という気持ちが芽生えます。
心理学でいう「ミラーリング効果」──
人は“自分を理解してくれる人”に安心感を抱き、
その人の言葉や行動を自然と模倣する傾向があります。
実践のヒント
・社内説明では「数字」より「背景」を語る
・施策の目的だけでなく「その先にある想い」を添える
・会議の冒頭で「お客様の声」や「失注事例」を共有する
共感の力で“他人事”が“自分ごと”に変わる。
この橋をかけられる人が、組織を動かせる人です。
💡関連記事
「参加化」で“関与のスイッチ”を押す
人は「任される」より「関わる」ことで動機づけられます。
つまり、“依頼”ではなく“共創”が、行動を生む鍵。
モチベーション・マネジメントの領域でも注目されている
アメリカの心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した
「自己決定理論」によれば、人が自発的に動くためには、
以下の3つの基本的欲求が満たされる必要があります。
自己決定理論の3要素
・自律性:自分の意思で選べる
・有能感:自分の行動が役に立っていると感じられる
・関係性:誰かとつながっている実感がある
これを社内コミュニケーションに置き換えると、「どう巻き込むか」が設計ポイントになります。
スモール・ステップのつくり方
・小さな役割を依頼する(例:ネーミング、初期テスト)
・質問形式で関与を促す(例:「この案どう思う?」)
・成果よりも“関わり”をフィードバックする
Slackで「ちょっと見てほしい」と投稿するだけでも、反応した人は“参加者”になります。
その小さな共創の積み重ねが、“一緒に動く文化”を育てます。
社内PRとは「心理設計」である
社内PRは「伝える技術」ではなく、「動かす設計」です。
どんなに正しい情報も、人が動かなければ意味がありません。
自分ごと化の3ステップ
・見える化(関係性を理解する)
・共感化(感情でつながる)
・参加化(行動を誘発する)
この3ステップは、社内だけでなく、
顧客や外部パートナーとの関係づくりにも応用できます。
人は理解したときではなく、「関わったとき」に動く。
“動かない”と嘆く前に、「どうすれば関われる環境をつくれるか?」を考える。
それが、これからの組織に求められるコミュニケーションの在り方です。