
CRMを“使わせる”じゃなく“使いたくなる”導入設計
「面倒くさい」の感情を超える、共感ベースの習慣づくりとは?
最終更新日:2025年9月9日
「便利なはずのCRM」が、なぜ使われないのか?
CRM(顧客管理ツール)は、営業現場を効率化し、
顧客関係の強化に役立つ「導入すべきツール」として、多くの企業で導入が進んでいます。
にもかかわらず──
「導入したのに使われない」
「最初だけ触って、定着しない」
「誰もログインしていない」
こんな声、聞いたことはありませんか?
その理由は、「操作が難しいから」だけではありません。
本当の原因は、“感情”にあります。
CRM(Customer Relationship Management)とは?
顧客との関係性を管理・強化するための考え方や、それを支えるITツールのことを指します。営業活動や商談履歴、顧客情報を一元管理し、マーケティングや顧客対応の質を高める目的で活用されます。
「面倒くさい」の正体は、複雑な感情のかたまり
新しいツールや仕組みを導入しようとする際、
必ず現場から上がる、あの一言──「いやあ、なんか面倒くさそうですね」。
実はこれ、表層的な言葉に見えて、
さまざまな感情が入り混じった“感情のミックス”なんです。
- 変えたくない気持ち:「今のやり方に慣れてるから、変えるのが不安」
- よくわからないものへの拒否感:「便利って言われても、イメージ湧かない」
- 監視される不快感:「営業行動を“見張られてる”ようでイヤ」
- 自分のやり方を奪われる感覚:「スタイルが“標準化”されそうで窮屈」
つまり、「面倒くさい」の奥には、
守りたい誇り・拒否したい圧力・漠然とした不安が潜んでいる。
この“感情の壁”を超えない限り、どんな高機能なツールでも根づくことはありません。
「感情を翻訳する」ことから始めよう
CRM導入担当者がやりがちなのが、「理屈の押し売り」です。
- 「このツールを入れれば、営業効率が上がります!」
- 「顧客の情報が一元化されます!」
- 「入力さえすれば、自動で分析されます!」
──これらは確かに、機能面での“正論”かもしれません。
でも現場からすると、「それで、自分にどんな意味があるの?」とピンとこない。
大事なのは、“手触りのあるメリット”として翻訳して伝えることです。
たとえば──
- 「アポ後の報告、10秒で終わります」
- 「●●さんらしい営業スタイルが“見える化”されてチームに共有されますよ」
- 「提案タイミングを“ツールが教えてくれる”かもしれません」
こんな風に、「あ、それ便利そう」「ちょっと使ってみたいかも」と思わせるには、
相手の立場に立った“感情翻訳”が必要なんです。
「使いたくなる」3ステップ──共感導線のリアル設計
ツールを根づかせるのは、“導入時の一言”や“空気づくりの仕掛け”の積み重ねです。
ここでは、CRMを“文化として根づかせる”ための
3フェーズに分けて、具体策を紹介します。
Step1:導入前──「納得できる選定と伝え方」を仕掛ける
■CRM選定時のポイント例:
- 直感的に使いやすいUIか?
- 多機能すぎて“玄人向け”になっていないか?
- 社風や組織文化にフィットするか?(例:入力をマメにしない文化など)
■導入説明会やオンボーディング時に効く言葉
- 「これを入れると“手間が減る瞬間”があります」
- 多「ד使え” 〇“こうすると楽になる”」
- 「今までのやり方を“全部変える”わけじゃない」
→感情を“翻訳”して伝える工夫を、
説明資料にも仕込むことで「心理的ハードル」を下げていきます。
Step2:導入初期──「使ってみたい」を自然に引き出す仕掛け
■初期の“CRM離脱”を防ぐには?
- 「よくわからない」で離れないように、最初のタッチで“成功体験”を演出
- 使えてない人を責めず、そっとフォローできる環境づくり
- 小さな気づきや便利さをシェアできる“雑談+ナレッジ”の場を設ける
■実践アイデア
- ライトニングトーク(朝礼で「この使い方、めっちゃ便利でした!」を1人1分で共有)
- 勉強会というより“情報交換会”の場で「なるほど」が伝播する仕掛け
- 各部署に1名、「エバンジェリスト役」を見つけて巻き込む(公式任命でも、自主的な協力者でもOK!)
Step3:定着期──「使ってるのが当たり前」の空気を育てる
■習慣を文化に昇華させるポイント
- CRMが議論の前提になる仕掛けをつくる(「この情報、CRMに入ってますか?」が自然に出てくる会話環境)
- SlackやTeamsと連携して、“日常の業務動線”に溶け込ませる
- CRMを使っていることで“共通言語”が生まれる体験をつくる
→このフェーズでは、“使わないと浮く”のではなく、
“使うと一体感が生まれる”ような空気設計が効果的です。
オンボーディングとは?
新しい仕組みやツールにユーザーをスムーズに馴染ませるプロセスや設計。CRM導入時では、初期設定・操作体験・“最初のつまずき”を防ぐための導入体験設計が該当。
エバンジェリストとは?
プロジェクトやツールの価値を社内外に広め、理解と共感を促す存在。現場に近い“協力者”や“伝道師”として機能し、定着・共感を後押しする。
CRMは、ツールではなく“文化の触媒”である
CRM導入の成功は、「設定できたか」でも「操作を教えたか」でもありません。
本当に問うべきは──
「現場が“自分ごと”として使いたくなるように、どう空気を設計し、醸成したか?」
という視点です。
- 「押しつけ」じゃなく、「わかってる感」で伝える
- 「機能の説明」じゃなく、「実感が返ってくる仕掛け」をつくる
- 「個人の努力」じゃなく、「文化として自然に根づく空気」を育てる
CRMは、感情と行動が重なったときにようやく使われる、“共感設計の道具”です。
「面倒くさい」の奥にある本音をそっとすくい取り、
「ちょっと、使ってみようかな」と思える空気を、あなたの手でつくってみてください。