効率化がすべてじゃない。令和の「人情営業」が、なぜ得をするのか

効率化がすべてじゃない。令和の「人情営業」が、なぜ得をするのか

“人情”は非効率じゃない。顧客の判断を早める営業の正体。

最終更新日:2026年1月16日


提案の感触は悪くないのになぜか進まない商談、ありますよね。
営業なら誰でも経験したことのある、現場でのそんな悩み。
この記事では、その正体を「人情」をキーワードに読み解きます。


今こそあえて「人情営業」を再考してみよう

「人情営業」と聞いて、どんな営業スタイルが思い浮かびますか。
足で稼ぐ。何度も顔を出す。「飲み」で距離を縮める。
そんな、少し懐かしい「汗と根性」の営業像を思い浮かぶかもしれません。
ただ、この記事で扱いたい「人情営業」は、
そうした昭和的な根性論の営業スタイルの話ではなく、
効率化やデータ活用を否定するものでもありません。
むしろ、効率化が当たり前になった今だからこそ、
あらためて考えたい「人が介在する価値」についての話です。

現代の営業は、大きく進化しました。
データドリブンな判断。CRMやMAを前提としたプロセス設計。
インサイドセールスによる分業と効率化。
どれも合理的で成果につながる考え方ですが、効率化が進めば進むほど、
説明しきれない「ズレ」や「違和感」が残る場面も増えています。
たとえば、

  • 条件は悪くないのに、判断が進まない案件

  • スコアは高いのに、検討が後回しにされてしまう商談

  • 数字上は問題ないのに、最後の一押しが効かない瞬間

データが間違っているわけではありません。
ただ、データだけでは拾いきれない領域がある。

そこで、あえて今回使うのが「人情」という言葉です。
昔ながらのやり方への回帰でも、効率化へのアンチテーゼでもありません。
効率化が進んだその先で、営業という仕事に、人はどんな役割を担うのか。
その問いに向き合うための入り口として、
「人情営業」という言葉を考えてみたいと思います。


令和の人情営業とは何か

ここで、この記事で扱う「令和の人情営業」を、あらためて定義しておきます。
それは、顧客の意思決定を、結果的に早めている営業です。

顧客は、商談のたびに多くの判断をしています。

  • この会社は信用できるか

  • この営業の話を、どこまで本気で聞くべきか

  • 今、検討テーブルに乗せる価値があるか

  • 後回しにしても問題ない案件か

こうした判断は、価格や機能だけで決まるものではありません。
多くの場合、次のような感覚が、判断のスピードに影響しています。

  • 「この人なら、大きく外さなさそうだ」

  • 「こちらの事情も理解してくれていそうだ」

  • 「無理な売り込みはしてこなさそうだ」

こうした感覚があると、顧客は毎回ゼロから慎重に考え直す必要がなくなります。
言い換えると、判断にかかる認知的なコストが下がっている状態です。
人情営業とは、この判断コストを下げる働きを、
意図せず、あるいは自然に果たしている営業だと言えます。

ここで大切なのは、人情営業が「好かれること」を目的にしていない、という点です。
目指しているのは、感情的な親密さではなく、判断が進みやすい状態をつくること

人情営業という言葉からは、粘り強く、時間をかけて取り組むもの、という
非効率な営業スタイルをイメージしがちですが、実際には非効率どころか、
顧客の側の意思決定を、構造的に前倒しにしていると言えます。
この視点に立つと、人情営業は、効率化と対立する概念ではなく、
むしろ同じ方向を向いた別のアプローチとして見えてきます。


人情営業が“実際に得をしている”3つの構造

ここまで見てきたように、
人情営業は顧客の判断を前に進める働きを持っています。
その結果、現場ではどんな「得」が生まれているのか。
ここでは、3つの構造に分けて整理してみます。

① 第一想起、あるいは「検討リスト」に自然と入っている

人情営業が効いている営業担当は、
案件が動き出したときに、思い出してもらえる確率が高い傾向があります。
必ずしも第一想起でなくても、

  • とりあえず声をかける相手

  • 比較検討の初期リストに入る相手

  • 外す理由が特にない相手

として、自然と検討の土俵に乗っている。
競争に勝つ以前に、競争に参加できている状態
を確保しているという状態は、営業として非常に大きなアドバンテージです。
ここで重要なのは、それが強い売り込みや派手なプレゼンによって
生まれているわけではない、という点です。

  • 話が通じやすかった

  • こちらの事情を理解してくれた

  • 無理な提案をしてこなかった

そうした過去のやり取りの積み重ねが、
「まずはこの人に声をかけよう」という判断につながっています。

② 判断が「後回し」にされにくい

二つ目の得は、判断が先延ばしにされにくいことです。
営業の現場では、

  • 条件は悪くない

  • 提案内容も理解している

  • ただ、今すぐ決めなくてもいい

という理由で、案件が止まってしまうことがよくあります。
一方で、人情営業が機能している関係では、
  • 「この人が言うなら、ちゃんと検討しよう」

  • 「話を進めてみても大丈夫そうだ」

と、判断が前に進みやすくなります。
ここでも、営業が無理に判断を迫っているわけではありません。
顧客側が、自分の中で判断を進めやすくなっている
という状態が起きている。
それは、
  • 変な方向に話を持っていかれない

  • 違和感があれば、相談できそうだ

という、心理的な安全性が担保されている状態だからです。
結果として、案件は止まらず、小さくでも前に進み続けます。

③ 小さなズレが「致命的な評価」になりにくい

三つ目は、少し言いづらいものの、現場では確実に存在している得です。
それは、
小さなミスやズレが、能力不足として解釈されにくいという点です。

たとえば、

  • 返信が少し遅れた

  • 日程調整で手間取った

  • 説明が一度で伝わらなかった

こうした出来事があったとき、関係性ができていない場合には、
「この人、大丈夫だろうか」という評価につながることがあります。
一方で、人情営業が成立している関係では、

  • 今回はたまたまだろう

  • 次はちゃんと対応してくれるはず

と、別の意味づけで処理されやすい
ここで起きているのは、「許されている」というよりも、
評価の文脈が安定している状態です。
この差は、積み重なると非常に大きくなります。

この3つをまとめて捉えると、人情営業の正体は、
相手の中に“期待値の貯金”をつくっている状態と考えられます。

  • この人なら、大きく外さないだろう

  • この人が担当なら、判断しても問題ないだろう

そうした期待があると、
顧客は毎回、ゼロから慎重に判断する必要がなくなります。
結果として、
  • 思い出してもらえる

  • 判断が前に進む

  • 評価が安定する

という、大きな「得」が生まれるわけです。
ここまで見てくると、人情営業は感覚論ではなく、
顧客側の判断プロセスに作用する、ひとつの構造として捉えることができます。


人情営業は属人礼賛ではない

ここまで読んで、
「結局、人当たりのいい人が得をするって話?」と感じた人もいるかもしれません。
ですが、この記事で扱っている人情営業は、
個人の性格や才能を礼賛するものではありません。
また、データや仕組みを否定する話でもありません。
むしろ、現代の営業プロセスを前提としたうえで、
それでも残る“判断の余白”にどう向き合うかという話です。

データ、CRM、プロセス設計。これらは現代営業における前提条件です。
ですが、現場ではしばしば、
「条件はそろっているし、情報も不足していない、なのに決まらない」
という瞬間が生まれます。
このとき、営業が担っているのは説得ではなく、
顧客の判断を支えるための「最後の補助線」を引くことです。

この補助線は、資料やスコアでは引けません。
引けるとすれば、「この人なら大丈夫そうだ」という感覚だけです。
人情営業とは、この補助線が引ける状態をつくっている営業だと捉えられます。

重要なのは、

  • 相手の判断コストを下げる

  • 不安を増やさない

  • 意味づけを安定させる

といった、構造的な要素の積み重ねによって
発揮されるための条件がそろった結果こそが「人情営業」と言えます。

その条件を作り出すために、特に重要なのが「余白」です。
日程調整や確認対応、社内連携や管理業務に追われている状態では、
相手の迷いや違和感に気づく余裕は生まれません。
人情営業に必要なのは、共感力や気合いよりも、
相手に向き合うための時間と集中力です。

効率化ツールは、人情を置き換えるためのものではありません。
むしろ、調整や管理の摩擦を軽くすることで、
営業が「人にしかできない判断支援」にエネルギーを使えるようにするための道具です。

人情営業は、効率化と対立する概念ではなく、
効率化の先で成立する営業スタイルだと言えるでしょう。


効率化の先で、営業は何をするのか

「人情営業」という言葉を、懐かしさや美談から切り離し、
令和の営業環境の中で再定義してみると、意外な発見があったと思います。

効率化と人情は、対立する概念ではありません。
効率化によって生まれた余白の中で、人はようやく相手に向き合うことができます。
そして、その向き合い方こそが、営業の成果を長期的に支える力になる。

効率化をやめるのではなく、効率化の先で、営業が担う役割をどう設計するか。
それが、これからの営業に求められている問いなのだと思います。

この記事を書いた人

渡辺 純

 

リコーが運営するオウンドメディアの編集長。

『RICOHビジネスクラウド:アポ取り』のプロダクトマネージャー。


新人の頃はリコージャパンで新規開拓の営業を経験し、雑談力を武器に独自の営業スタイルを確立。その後、リコーでクラウドソリューションの海外マーケティングを担当し、海外支社に対して商品立ち上げや販売施策を展開。学生時代はオランダで10年ほど過ごした帰国子女。趣味はバドミントン(社会人大会に出場)とスノーボード。

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