その失注の理由、実はアポ前にある──商談相手を見極める視点

その失注の理由、実はアポ前にある──商談相手を見極める視点

商談の中で失注するのではなく、そこには「前提のズレ」があるのかも。

最終更新日:2026年1月30日


アポはすんなり取れた。話もそれなりに盛り上がった。
それでも次に進まず、結果は失注──そんな経験はありませんか。
この記事では、その理由を「商談前」という視点から考えてみます。


アポが取れたのに、なぜ失注するのか

アポが取れた瞬間、営業としては少しホッとします。
特にインサイドセールスにとっては、「話を聞いてもらえる」ことは大きな一歩。
それだけに、商談の末に失注という結果になると、
私たちはつい「商談の中」に理由を探してしまいます。

提案資料がまずかったのか。価格が競合より高かったのか。
あるいは、自分の説明やトークに問題があったのか。
こうした振り返りは大切ですが、
そこで一度、立ち止まって考えてみたいことがあります。

その失注は、本当に商談の中で決まったものだったのでしょうか。

商談の感触は悪くなかったはずなのに、
なぜか次のステップに進まず、結果として失注に終わる──
そんな経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。
こうした失注をすべて
「提案が弱かった」「営業力が足りなかった」と捉えてしまうと、
営業はどんどん消耗していきます。

もう一つ見落とされがちな視点があります。それは、
そもそもその相手は、商談に入る準備が整っていたのかという問いです。
アポが取れたことと、
商談に進むべき相手であることは、必ずしもイコールではありません。


失注は、商談が始まる前に決まっていることがある

商談がうまくいかなかったと感じると、
私たちはどうしても「その場のやり取り」を振り返ります。
提案の順番、説明の仕方、価格の出し方。
どこかに改善点があったのではないか、と。

ただ、現場を見ていると、
そうした要素とは別のところで結果が決まっているケースも少なくありません。

たとえば──
話はそれなりに盛り上がった。資料にも興味は示してくれた。
けれど、商談が終わったあと、次のアクションに進まない。
検討が進んでいる様子も見えず、やがてフェードアウトしていく。

こうしたケースでは、商談の出来そのものが原因というよりも、
商談に入る前の前提条件が揃っていなかった
と考えたほうが自然な場合があります。

そもそも相手は、いま何かを導入しようとしていたのか。
社内で検討を進める立場にあったのか。
情報収集の一環として話を聞いていただけなのか。
こうした前提が曖昧なまま商談に進むと、
どれだけ丁寧に説明しても、結果は動きません。
なぜなら、相手の中に「判断する理由」そのものが存在していないから。

この状態を、「温度感が低い」と表現することもあります。
ただ、それだけでは少し足りません。
温度が低いのではなく、まだ判断フェーズに入っていない
あるいは、判断するつもりが最初からない
そうした相手が、営業プロセスの途中に紛れ込んでしまうことは、
決して珍しいことではありません。

失注の原因を商談の中だけに求めると、このズレは見えにくくなります。
そして営業は、不必要な改善に延々と取り組むことになってしまいます。


営業の現場に紛れ込む「リードもどき」

アポが取れた相手の中には、見た目だけでは判断しづらい存在がいます。
問い合わせもしている。日程調整にも応じてくれる。
商談の場でも、こちらの話をきちんと聞いてくれる。
一見すると、まさに「リード」です。
けれど実際には、予算も、導入の意思もなく、
社内で検討を進める立場にもない。
最初から「買う気がない」、そんな存在です。
営業の感覚として正直に言葉にするなら、
顧客の仮面をかぶった“リードもどき”とでも呼びたくなる存在です。

もちろん、相手に悪意があるわけではありません。
問題は、そうした相手と、本当に商談に進むべき相手とが、
営業の側から見ると同じ「アポ」として扱われてしまう点にあります。

アポが取れたという事実は、インサイドセールスにとって大きな成果です。
だからこそ、そのアポが
「商談に進む前提が整っているものなのか」を疑うことはとても難しい。
結果として、本来は判断フェーズにいない相手に対して、
商談という形で時間と労力を投じてしまいがちです。
そして失注すると、営業はその原因を自分にあると考えてしまいます。

ここで起きているのは、営業の努力不足ではありません。
また、相手の質が悪いという話でもありません。
単に、「いま話すべき相手」と「そうではない相手」が、
営業プロセスの中で整理されていないという構造の問題です。


なぜ「リードもどき」は生まれるのか

では、こうした「リードもどき」は、
なぜ営業の現場に生まれてしまうのでしょうか。
結論から言えば、
これは営業個人の問題でも、相手の問題でもありません。
営業プロセス全体の構造の中で、自然に生まれてしまう存在です。

たとえば、資料請求や問い合わせといった行動は、
必ずしも「導入を検討している」ことを意味しません。
多くの場合、それは単なる情報収集の一環です。

市場にどんな選択肢があるのか。
価格帯はどのくらいなのか。
自社の課題と合いそうかどうか。
そうした段階で営業に接触することは、ごく一般的な行動です。

一方で、営業の側から見ると、問い合わせや資料請求は
「関心がある」「検討が始まっている」というサインに見えがちです。
ここに、最初のズレが生まれます。

さらにインサイドセールスの場合、
アポ獲得というKPIが明確に設定されていることも多く、
どうしても「話を聞いてもらえる相手」を前に進めたくなります。
その結果、判断フェーズに入っていない相手や、
そもそも判断する立場にいない相手が、商談の場まで進んでしまう。

これは、誰かが悪いから起きる現象ではありません。
リード獲得から商談化までの流れの中で、
相手の状態を細かく整理しきれないまま、
営業プロセスが前に進んでしまうことによって起きるのです。

その整理ができていないと、本来はまだ商談に進む段階ではないのに、
商談という重たいプロセスを相手に仕掛けてしまう。
そして結果として、営業も相手も疲弊してしまいます。


小さな「違和感」から進退を見極める

マーケティングの文脈では、理想的な顧客像をプロファイル化したものを
ICP(Ideal Customer Profile)と呼びます。
精度の高いICPが整備されている営業環境であれば、
アポが取れたのに失注するといった事態は大幅に減らせるかもしれません。
ですが、本来ICPは、自社の成功顧客の分析や、
定量・定性要素の整理などを通じて、じっくり設計すべきものであり、
すべての営業が最初からそこまでできているわけではありません。

まずは、自分自身の中で、
「この相手と今どこまで話すべきか」を整理することが大切です。

たとえば、営業の現場ではときどき、
「この商談、少し噛み合っていないかもしれない」
と感じる瞬間があると思います。
相手の課題と、こちらの提供価値がどこかズレている。
検討の話になると、言葉が急に曖昧になる。
決裁の構造が、最後まで見えてこない。
こうした違和感は、トークや提案内容云々以前に、
商談に進む前提が揃っていないサインと捉えることもできます。

「この相手と今どこまで話すべきか」が整理できていれば、
商談に進まなかったとしても、それは失敗ではありません。
適切な段階で立ち止まれた、というだけのことです。


失注を減らすとは、話す相手を見直すこと

失注を減らすとは、営業力を高めることだけを意味しません。
営業として話す相手を、丁寧に見直すことでもあります。

いま判断フェーズにいる相手なのか。情報収集の段階なのか。
あるいは、そもそも購買行動に入る気がないのか。
その違いを整理できていれば、商談に進まなかったとしても、
それは「無駄」ではありません。
むしろ、適切なタイミングで線を引く前向きな判断だと言えます。

営業の効率化とは、アポ数を増やすことだけではありません。
無理に進めない判断ができることも立派な効率化だと言えるはず。
失注を単なる「失敗」と考えるか、「判断の精度」の問題と捉えるか、
それが、限られた時間とリソースの中で成果を出す営業と、
そうでない営業を分けるポイントなのかもしれません。

この記事を書いた人

渡辺 純

 

リコーが運営するオウンドメディアの編集長。

『RICOHビジネスクラウド:アポ取り』のプロダクトマネージャー。


新人の頃はリコージャパンで新規開拓の営業を経験し、雑談力を武器に独自の営業スタイルを確立。その後、リコーでクラウドソリューションの海外マーケティングを担当し、海外支社に対して商品立ち上げや販売施策を展開。学生時代はオランダで10年ほど過ごした帰国子女。趣味はバドミントン(社会人大会に出場)とスノーボード。

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